昨年の夏、私はイスラエル軍の猛攻撃を受けていたパレスチナ自治区ガザにいた。避難民が集まる国連学校への攻撃、救急車や病院への攻撃、がれきの山と化した市街地…まさに戦争犯罪のオンパレードだった。ガザ取材を終え帰国した私を驚かせたのは、従軍慰安婦報道をめぐる朝日新聞の報道への猛烈なバッシングだった。政府与党の政治家や一部の新聞や雑誌などは、朝日新聞を攻撃するにとどまらず、まるで従軍慰安婦問題など無かったとでも言わんばかりの主張をしていたことに衝撃を受けた。こうした「愛国者」気取り達の狂騒を観て思い出したのは、あるイスラエルの平和運動家の言葉だ。「イスラエルでは、2000年前の歴史のことは学校で教えるが、この国が建国される際、どれだけパレスチナ人に酷いことをしてきたかは、教えない。歴史を直視しない、させないことが現在の暴力にもつながっている」。彼の言葉は、最近の日本の政治やメディア、ネット社会にも通じるものがあるような気がする。だが、あえて言おう。自国の侵略行為、そこで起きた数々の人権侵害をなかったことにし、現在の戦争犯罪も正当化する。そんな国に日本をしてはならないのである。
ジャーナリスト 志葉 玲